柴田の恩返し
ちょっと用事があって車で外出したんですね。
いつもなら3分ほどの距離なんですが、5mほど先が見えないくらいに視界が遮られるひどい吹雪でして、道路が大渋滞。結局、15分ちょっとかかってしまいました。
んで、一時間ちょいで用事を済ませて帰宅しようとしたら、まだ吹雪いてるじゃないですか。
ってことはですよ。
ってことはです。
僕が外出したときからずっと吹雪いているということですから、より雪が積もってるってことですよね。
で、行きに通ってきた幹線道路は、この雪だし、さっきより渋滞しているだろうから、住宅街の中道を通って帰ろうと思ったわけです。まあ、それが間違いのはじまりだったんですけど。
住宅街の中道はほとんど車が通っていないので、前に通ったであろう車の轍(わだち)のあとをトレースして運転していたんですよ。
そうでないと、車の底が積もった雪にひっかかって埋まってしまいますからね。
そんな道路を、「いやだな〜、こわいな〜、こわいな〜」って稲川淳二ばりに車が埋まることを恐れて運転していたんですよ。
そしたら、やっぱり。
そう、やっぱり、ね。
埋まりましたよ。
ガッツリと。
ここは札幌のススキノとか中心部から夏場なら車で15-20分くらいのところですよ。
埋まるかよ、しかし。
いや、今日は埋まっても仕方ないくらいにハイペースで雪が積もってましたからね。埋まるわ、そりゃ。
中道を選んだ俺が悪かったわ。
でも、現に埋まってしまったものは仕方ない。
車から降りて状況を確認しました。
車の底が道路に積もった雪と密着してしっかりと一体化しています。
僕の車は4WDですが、こうなってしまってはもうどうしようもありません。
まな板の上の鯉です。
雪に埋まった4WDです。
困ったな〜、、、とタイヤの向きを切り返したり、車まわりの雪をほじくりだしていると、一台の車が後ろから近づいてきて、一人の男性が降りてきました。
その男性はお笑いのアンタッチャブルの柴田氏にソックリなメガネで、メガネのオッサンである僕は、「あ、なんかメガネのキャラが俺とかぶってるわ」と感じました。
柴田は僕の車をみると、「ああ、ガッツリ埋まっちゃってますね〜」と呟きながら自分の車から牽引用のローブを取り出しました。
僕は内心、「なに、この人! もしかして助けてくれるの!? やだ、なにこれ! だれ、このイケメン!?」
とテンションがあがりまくりました。
柴田は手際よく僕の車と柴田の車をロープでつなぎ、ものの3分で僕の車を救い出してくれました。
僕は柴田に対して、
「本当に助かりました。こんなところで他に車も通らなかったらとたいへん困っていました。お時間とお手間をかけて助けていただきまして、本当にどうもありがとうございます!」と丁重にお礼を述べました。
すると、柴田はこう語り出しました。
「いいんですよ、オッサン。当然のことをしたまでです。……オッサン、僕のことを覚えてます?」
突然語り出きた柴田に僕の頭の中は「???」です。
「……いえ、失礼ですが、前にどちらかでお会いしてますでしょうか?」
すると柴田は
「オッサン、僕はあのときのツルですよ北区のローソンでは助けていただきどうもありがとうございました(ニッコリ)」
(!!!)
「お、お前、あのときのツルなのか!? 去年の冬にローソンの前の罠にひっかかっていた!?」
「そうですよ、オッサン。あのときは助かりました。そのときの恩返しにきたんです」
「ありがとう! 柴田、ありがとう!」
「礼には及びませんよ、オッサン。じゃ、僕はこれで」
柴田はそう言い残し、牽引作業でズレてしまったメガネをかけ直しながら踵を返し、去っていきました。
ツルなのに、飛ばずに。
スバルのレガシィに乗って。
吹雪いてるし、飛んでいけないよね。
走り去るレガシィを眺めながら、「そういえばたまたま持っていたお米券、お礼に渡せば良かったな」
そんなことをぼんやりと考えながら、こうも思いました。
「俺も困っている人がいたら、美人の女性限定で全力で助けよう。男だったら、気づかないフリをしよう」
そう強く心に誓いました。
半分フィクション(鶴のくだりのみ)のハンフィクションでした。
俺も明日から本気で人助けするぞっ!!(美人の女性限定で)